ムニマのおむつ離れ

おむつのとれねえ大学院生が、お絵描きしたり、おしゃべりします

もや〇もんに喧嘩を売りました

今回は菌類をモデルとしたマスコットキャラクターをデザインしたお話をしようかと思います!…と言うと、たいそうな仕事をしたような口ぶりですが、実際はイベント直前に依頼され死に物狂いで書き上げた即興モンスターたちですので、「変なもん描いてらぁ」って感じで笑っていただければ幸いです。

 

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全員集合!

 

 

1、マスコット作成を依頼された経緯

 きっかけは僕の所属する菌の研究室が発酵サミットと呼ばれる発酵食品のお祭りへの参加を決めたことでした。そこで一般向けに発酵に関係するカビの観察イベントを開催することとなり、ブースを少しでも親しみやすくするための飾りつけを教授に頼まれた次第です。僕は卒研中間発表のころから「ヤマトシロアリのやまちゃん」なるキャラクターを多用したパワポを作成しており、そんなイタい趣味を露呈している学生に気を遣ってくれた先生から

「ムニマ先生!また一つ、かわいいキャラクターお願いしますよ~~!」

とおだてられ、秒で依頼を引き受けたのでした。

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ヤマトシロアリのやまちゃん。シロアリの話はまた別の機会に!

 

2、コンセプト

 菌類をモチーフにキャラクターを作るうえで何が最も大きな障壁となるか…。題名を見た瞬間にピンときた方もおられるでしょう。

 そう!菌漫画(こんなジャンルある?)の権威、「もやし〇ん」の石川〇之大先生と同じ土俵で戦うということになるのです…!

 そんな大人気漫画家 vs ぽっと出の卒研生の私。こちらの武器は菌を実際に野外から見つけ、培養し、同定(図鑑などで菌の種類を特定した)したという経験のみ(石川さんもやっているのかもしれませんが汗)。故に差別化を図るべく見つけ出したコンセプトは「菌ありのままの可愛さを伝える!」とました。その具体策として用いた手法は2つです。

 

1、キャラのデザインをメルヘン妖精に統一

2、形態的特徴を強調する

 

まず1のメルヘンについて。数年顕微鏡をのぞいてきた身として、菌の可愛さはミクロな世界にあるメルヘンな雰囲気にあると感じていました。

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私がスケッチした菌たちの例。この話もいつかちゃんと書きたいですね。

どうでしょう?日常生活では見慣れない、しかしどこか均衡のとれたデザインの数々。この不思議の国に迷い込んだような雰囲気が菌の可愛さだと思うんですよね。

そんなメルヘンチックな雰囲気を出せるようにキャラクターは皆妖精チックなデザインに統一し、シンプルかつなるべく元の面影(シルエット等)を残しました。

 

次に2の形態的特徴について。形態的特徴とは、菌がその菌の仲間だということを特徴づける見た目上の特徴です。例としてヒト種と他の類人猿の見た目上の違いを考えてみましょう。脳の発達により頭が非常に大きいですね。また直立歩行のために背骨が独特なS字型をしています。それ以外にも細かいところを挙げれば毛が少ないだの親指の位置が違うだのたくさんの外見的な特徴から「あなたはヒト種だね!」と判断できるわけです。このような特徴が菌類にもあり、できるだけその特徴を強調してキャラクターを作ろうと考えたわけです。宇宙人に「君らヒト種をモチーフとしたキャラクターを作ったよ!」と言われて猿と区別のつかないものを見せられたら悲しくなりませんか?そんな悲しみを菌たちに味わせたくなかったのです。

 

…少々説明が長くなってしまいましたが、ここからは各キャラクターの紹介をしていきますね!

 

3、各キャラクター紹介

各キャラのモデルとその特徴、こだわった点を紹介しますね。

モデル:Aspergillus sp.(アスペルギルス) \ 命名:アスペル

 

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日本の発酵の立役者、アスペルギルス氏です!この仲間には味噌や麹(日本の)、日本酒や甘酒を作るAspergillus oryzae. (和名:日本コウジカビ)や、醤油を作るもの(Aspergillus sojae.)、鰹節の熟成に利用されるもの(Aspergillus chevalieri.)がおり、まさに日本の発酵を代表する菌です!

  特にAspergillus oryzae.は「A.オリゼー」の名で、某人気漫画「もや〇もん」に登場し、一躍人気者になった背景を持ちます。

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スケッチに慣れていない頃のもので、あまりいいスケッチではないですが参考までにAspergillus sp. 

この菌の形態的な特徴としては1本の分生子柄(分生子/分生子形成細胞がその上に作られる柄)の頭にボウリングのピンのような構造がたくさん!「アスペル」の指部分に表現したのがこの構造で、ピンの先端は分生子(無性生殖で作られる胞子。この一つの細胞からまたこいつが生えてくる!)ピンの根元は分生子形成細胞(分生子を作る細胞)です。「アスペル」の手はそんな分生子形成様式を表現しました。そして実際にはこの構造が1つの分生子柄の頭にウワーーッ!ってくらいたくさん生えていてブロッコリーみたいにフッサフサして見えます。

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Aspergillus sp.のプレパラート*1を作り光学顕微鏡で観察した際の写真。ウワーーーッ!!

このふさふさを「アスペル」の頭で表現したという感じで、要するに手も頭も同じ構造を視点の細かさを変えて表現しています。

モデル:Penicillium sp.(ペニシリウム) \ 命名:ペニー

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 この菌はブルーチーズ作りに用いられるPenicillium roqueforti. やカマンベールに用いられるPenicillium chamenberti. (カマンベルティ、まんまですね)が代表に挙げられ、チーズを作るカビですね。

 ただ、この仲間はもっと身近に存在します。パンやミカンを腐らせた際に青カビが生えた経験はありませんか?このアオカビは基本このペニシリウムの仲間なのです。

 この菌の形態的特徴としては分生子を作る細胞(分生子形成細胞)が1本の菌糸から分岐して箒状に広がり、その先端に連鎖して分生子をポポポポッと作るところにあります。感性の豊かなお子さんなんかは「ガイコツの手だ!!」なんてはしゃいでくれましたね。そのイメージをそのまま流用したのが「ペニー」の手となっています。

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Penicillium sp.を青色で染色し、光学顕微鏡で観察した際の写真。ガイコツの手だッ!

 また実際に生えている様子を虫眼鏡で観察すると、連鎖した分生子の数珠が何本も絡み合ってヒョロヒョロ~っと天へ向かって伸びているように見えます。このイメージを「ペニー」の頭に適用しました。

 最後に、この菌はミカンやパンにバンバン生えることからわかるように非常にメジャーな菌で、菌研生から恐れられています。というのも違う菌を育てようと餌(培地)を用意していたらこいつが生えてくるなんてことがしばしば。そんな神出鬼没さをゴーストチックなデザインに託し、ヒョロヒョロな雰囲気と分生子形成様式も盛り込めた「ペニー」は一番のお気に入りです。

モデル:Botrytis sp.(ボトリティス) \ 命名:ボトボト

 

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 身近な例だとイチゴが腐った際にワサーっと生える灰色のカビは基本こいつです。果物や野菜に灰色カビ病を起こす病原菌としても知られます。発酵としては貴腐ワインの生産に用いられ、この菌が生えたブドウは水分が抜けて糖分が高くなってワインが芳醇な香りと濃厚さを持つようになるんだとか。

 名前はムー〇ン谷に生息する謎生物から。

モデル:Mucor sp.(ムコール) \ 命名:ケカビン

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 早く育って早く死ぬ!ニョーンと1本伸びて先端に丸一つボン!待ち針みたいな見た目をしており、コロニー(菌の集まり)は待ち針の刺さった針山みたいになります。この先端の丸ボン!は袋になっており、袋の中に胞子嚢胞子(分生子同様、植物の種のように植えると新しい個体が育つ細胞)をこれでもかを蓄えています。この菌は見た目が非常にわかりやすくてかわいいのでお子さんにも大人気!「ケカビン」もそんな可愛さとニョーンと伸びたスケール感を表現できたかなと思います。

 発酵食品としては中国の腐乳、臭豆腐(豆腐にケカビを生やしたもの)などが挙げられます。日本は発酵といえばコウジカビ(アスペルギルス)ですが、中国ならケカビ、北欧ではペニシリウム~のように国で発酵に使うメジャーな菌が異なるのは面白いですね。

モデル:Rhizopus sp.(リゾパス) \ 命名:リゾパスン

 

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 「ケカビン」(ムコール)と同じ接合菌の仲間であり、早く育って早く死に、ニョーンと伸びて頭ボーンです!が、こいつは更なる特徴を持ちます(属性盛りすぎ)! それは仮根と呼ばれる根っこのような構造を持つこと。その足も褐色の濃ゆーい色したごつい根っこで、これがどこにでも生える…。アイスクリームのカップに入れて置いたら壁にも蓋にもこいつがびっしり生える!まるで重力を無視して生える森のようです。そんな化け物じみた生命力と青~紫のかわいい頭(胞子嚢胞子)を持つ彼にはキモさと可愛さを盛り込みました。

モデル:geotrichum  sp.(ゲオトリカム) \ 命名:ゲオち

 

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 この仲間の一部はカマンベールチーズの作成に用いらているそうです。特徴としては分生子の作り方が分節型であり、菌糸の先端がポコポコポコっと数珠状に分裂し、その一つ一つが分生子になるというような地味な次世代の作り方をするところですかね。僕の持つ印象がこんなものなのでキャラクターもなんかやる気ないです…汗。

モデル:saccaromyces sp.(サッカロミケス) \ 命名:コゥボちゃん

 

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 コボちゃんならぬコゥボちゃん。酵母という言葉はよく聞きますが、これは単一種の生き物を指す言葉ではなく、単細胞で分裂を繰り返す真菌類(二核菌)の総称です。要はニョロニョロ~っていう菌糸を持たない1つのマルポコ細胞で暮らしてる菌類全般を指してます。はい、定義で分かるように見た目つまらんです。ただ出芽と呼ばれる、母個体から子の体がこぶのように生えてきて、これが大きくなって新しい個体になる~というようなかわいい(?)増え方をします。パンを膨らませたり日本酒、ワインのアルコールを生産する発酵で大事な菌がこの仲間ですが、やはり形態的には…地味。。

4、マスコット作成の舞台裏:没案集

 作成は

1、ラフの書き出し

2、コンセプトの決定、案の選別

3、デザインを詰めて清書

の流れで行いました。この工程の中で生まれた没案たちを紹介しますね。

【黎明編:ラフ画たち】

 

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コンセプトすら決定していない頃の落書きたち。遊〇王っぽかったりジョ〇ョっぽい立ち方してたり、ポケ〇ンっぽかったりいろいろ楽しんでますね。(案外おばさんっぽいアスペルギルスキモくてお気に入りです)

 

【没案:発酵家族】

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 コンセプト決定前、有力候補として君臨していたのが発酵家族です。彼ら(?)は各菌の特徴(分生子形成様式)を人の髪型で表現できるのではないか?という着想のもと生まれました。親しみ深く統一感のあるファミリーの形でキャラクター化していこうというコンセプトのもと作っていき、ラボメンからの支持もそこそこあったのですが唐突にイイダが発狂!「こんなの菌じゃねぇだろ!!」(…当然すぎますね汗)。実際この方針だと、菌の特徴を髪型のみに押し込まざるを得ない(他の部分を菌にすると人間でなくなる)くせに、家族のどの立ち位置なのかを示すために服装、顔など菌に関係ない情報をやたら必要とするんです!ゆえに、マスコット内で菌に関する情報の濃度が落ちていく結果になったところが許せなかったんですよね。私は家族のマスコットを描いてるんじゃねぇ!菌のマスコットを描いとるんじゃ!「このキャラがどうして菌なの?」と説明しなきゃわからないキャラクターはマスコットとして意味がないのではないかなという考えも根底にありました。

 しかし、発酵家族を経たからこそ「菌のありのままの可愛さを伝える」というコンセプトを確立でき、メルヘン妖精が誕生したのでした。教訓としてはコンセプトの確立は早期にするべきって感じですね。

 

5、外部からの評価と今後の展望

 リスポンスで印象的だったのは、実際に発酵関係のお仕事をされている方からの

「ゲームの敵キャラっぽいから、もっと無害アピールしてほしい!」

との指摘でした。この指摘で自身のコンセプトの詰めの甘さを実感しました。

 というのもこの祭りは一般向けに発酵の菌を紹介するイベントです。そしてお客さんは一般に、菌に危険(毒性など)なイメージを、発酵食品にはおいしく健康に良いというイメージを相反して持っています。

 本ブースの目的はそんな相反するイメージを持つ発酵食品を繋げることです。そう考えるとマスコットを通じて最優先に伝えるべきイメージは「発酵食品に使う菌は良い(えらい!優しい!)菌!」だったのではないか?そう考えると菌本来の姿にとらわれ過ぎた今回のデザインは不適切だったのではないか?感じています。

 

 今回のお仕事は「菌のそのままの可愛さを保ちつつキャラクター化する」という目標は達成したと感じていて、今後も落書きで書きたくなるくらい愛着の湧くキャラクターに仕上がったと満足しています。しかし、今後このようなお仕事をいただいた際には最初のコンセプト作りのプロセスをより大事にしていけたらなと思います。

*1:菌体を水などの封入液と共にガラスで挟んだもの